千尋くん、千尋くん
時間が経てば思い出になるよ。
なんて、よく聞くけど。
あたしにそれは無理だった。
むしろ、時間が経つたびに彼の存在が大きくなっていく。
もう、押さえきれないくらいに。
あの頃に戻りたいと、意識とは別のところで声が聞こえる。
………聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない。
後悔なんて、受け付けない。
あたしは、本当にいつか彼を……忘れられる?
彼以外の人に、ちゃんと寄りかかって生きていける?
そんな思いが身体中を巡るうちに、季節は春の始まりを告げていた。