千尋くん、千尋くん
「そういえば、体育の時のお返し。今くれる?」
思い出したようにそう言って、あたしを見下ろす千尋くん。
「え、今? 現金以外なら……」
「ぷっ、誰が彼女に現金請求するか」
「良かった……」
ホッと胸を撫で下ろしたあたしに、不意に千尋くんの顔が近づいた。
チュッと音をたてて、唇の違和感が一瞬で離れていく。
「ちっ、千尋くん……!」
「今のは、今日スカートが短かったことのお詫び」
「っえ」
そして、またすぐに千尋くんの体温が重なる。
今度は少し長い。
「これは下駄箱の前にいて邪魔だった時の」
いたずらっぽく口角を上げた。