千尋くん、千尋くん
「遅い」
そこにいたのは、下駄箱に寄りかかって視線だけをこっちに向ける千尋くん。
今日は夏も近いせいか少し気温が高く、ブレザーを着ていない黒のセーター姿だった。
少し大きめに開いたワイシャツの首もとに、シルバーのネックレスが光っている。
「あ、えと……もう帰っちゃったのかと」
千尋くんとは、特に毎日一緒に帰る約束もしてないので、たまに帰る時間が重なった時に帰る程度だった。
それに今日は雨ってこともあって、もう帰っちゃったのかと思ってたから。
千尋くんが待っていてくれたのは、意外だった。