レンタル彼氏 Ⅰ【完結】
気付いた時には俺はそいつの顔を思い切り殴っていた。


そいつは大きく後ろに倒れこむ。

「………ってぇ………」

ぽつり、そう呟いた。
のろりと立ち上がった男が、頬を手で押さえながら俺をにやにやしながら見た。


その顔に本当に嫌悪感が増す。


「……紀子ぉ、金必要なんだよ。金!」


「………いくら?」


「紀子さん!!」


そんな返事をする母親の方を向き直る。
が、母親は財布を持ってきて中から一万円札を出した。


「本当にお金ないの、それで勘弁して下さい」


「あいよ」


まだにやにや笑うそいつは、そのお札を掴むと店から大人しく出て行った。


出て行くまでずっとその後ろ姿を見つめた。

腸が煮えくりかえるような思いでずっと。



なんだ、あいつは。
あれを父親だと、思いたくもない。



……女のとこにいるのに、何で………?

金なんか、そいつに貰えばいいだろ?


ぐっと爪が食い込むぐらいに拳を握り締める。



と、母親が俺の拳を優しく持ち上げた。
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