レンタル彼氏 Ⅰ【完結】
なんか、勝てない。
そう、思った。


何か戦ったわけでもないのに、彼にはどんなことでも勝てないと思った。

きっと、惚れてしまったら終わりだろうと。



「…がっかりした?」


「え?」


「俺が理想通りでなくて」


図星だった私は何も言えず口を噤んでしまう。


そんな私を見て自嘲しながら伊織は壁を拳で思い切り殴りつけた。


いきなりのことに固まってしまって、身動きがとれなくなる。




「………俺は俺でいたら好きになってくれないのか?」


ぼそりと呟く伊織は。




レンタル彼氏で毎日、愛を囁いているはずなのに。




とても愛に飢えているように見えた。




16の私が何を言うと思うかもしれないけど、少なくとも私にはそう見えた。
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