レンタル彼氏 Ⅰ【完結】
「次の日、伊織に泣いてたことと、泉のこと言ったら…何の反応も示さなかった」


「…そう」


タバコの煙を吐き出しながら、私は千里の言葉を頭の中で繰り返した。


“泣いていた”



…千里がそんな嘘つくわけないし。
千里って結構バカがつくぐらいの正直者だからな。

考えを巡らせると、千里が俯きながら言う。

「………会いたいって呟いたことは伊織に言えなかった」


「…言えなかった?」


「……なんか、言ったらいけないことのような気がした」


「なぜ?」


「分からない」


そう、言ってまた俯いた。

……そうかあ。
だけど、多分私も言わない方がよかったと思うよ。


結局、二人はあの時会ってしまったけど。
あの日、会わなければもっと苦しむことなんてなかったんだから。

二人で泥沼にはまることなんてなかったのに。

「……千里、言ってくれてありがとう」


「…ああ」


「伊織には私が言うから任せて」


「……ああ」


「だからっ!」


わざと、大袈裟に声を弾ませて言った。


「ケーキ食べよっ!」

一瞬、目を見開いた千里だったけど、すぐに微笑んだ。

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