レンタル彼氏 Ⅰ【完結】
その翌日。
僕が伊織さんの部屋へ資料を持っていこうと出た時だった。


ちょうど、伊織さんが廊下を歩いていた。
コンビニの袋を持っているから、何か買って来たのだろうか。

…昨日あれだけ僕が買ったのに。


そう思うけど、文句も言えず僕は伊織さんに声をかけた。


「伊織さん」

ぴくっと肩を揺らした伊織さんがゆらっとこっちを見る。
その姿が昨日の虚ろな時よりも不気味で思わずぞくってした。

「何」

低い声を出した伊織さんは何か、高圧的だ。


「いや、昨日の資料…」

「ああ。そか」

こっちに体を全部向けて、伊織さんは早く寄越せと言わんばかりに手を出す。
それに僕は慌てて資料を差し出した。

その資料を渡すと、

「では、また」

と言ってその場を去ろうと踵を返した。


だけど。


「あーー佐々木」

「…はい」

そうやって、僕を呼びとめた伊織さん。
くるっと振り向くと、顔だけこっちを向かせた伊織さんはぼそっと。


「……ありがとな」

一言だけ言うと、僕の言葉を待たずに部屋へと入って行った。
< 471 / 472 >

この作品をシェア

pagetop