黄緑絵の具


大学前の駅から15分、電車に揺られ目的地へ向かう。

晴れた空は雲一つない、吸い込まれそうな綺麗な青色。

キャンパスに絵の具をぶちまけたい衝動に駆られた。


駅から歩くこと数分。
商店街の角を曲がり、裏路地を歩く。

『この辺だと思うんだけどな……』

アキラに渡された地図は見づらく、正直言って分かりにくいものだった。


昭和の雰囲気が残るその路地は薄暗い。
そして少し不気味な雰囲気を醸し出している。

『こんな所に画材屋があるのかなぁ』

辺りを見回しながら歩き回り、やっと目的の店を見つけ出した。

“桑原屋”

その店は木造住宅を店舗に改装したような造りで、商品も埃を被っている。

『すいませーん……』

恐る恐る呼びかけると、奥から老女が出てきた。

『お待たせしてすいませんね。
何が欲しいんだい?』

『ウィンザー&ニュートンのパーマネントローズとローシェンナ、それとこれを』

アキラから預かった受取票を渡した。

『あぁ。アキちゃんのあれね。
ちょっと待っててね』


老女は棚から包みと絵の具を取り出し、紙袋に入れてくれた。


僕が財布を取り出してお金を出すまでの間、老女はじっとこちらを見続けている。

『あの……なにか?』

思い切って訊ねると、老女はニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

『あんた。いい男だねぇ。
死んだ旦那に似た、いい目をしてるよ』


ひいばあちゃん位の年寄りとは思えない発言に、寒気が走った。



< 2 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop