黄緑絵の具
大学前の駅から15分、電車に揺られ目的地へ向かう。
晴れた空は雲一つない、吸い込まれそうな綺麗な青色。
キャンパスに絵の具をぶちまけたい衝動に駆られた。
駅から歩くこと数分。
商店街の角を曲がり、裏路地を歩く。
『この辺だと思うんだけどな……』
アキラに渡された地図は見づらく、正直言って分かりにくいものだった。
昭和の雰囲気が残るその路地は薄暗い。
そして少し不気味な雰囲気を醸し出している。
『こんな所に画材屋があるのかなぁ』
辺りを見回しながら歩き回り、やっと目的の店を見つけ出した。
“桑原屋”
その店は木造住宅を店舗に改装したような造りで、商品も埃を被っている。
『すいませーん……』
恐る恐る呼びかけると、奥から老女が出てきた。
『お待たせしてすいませんね。
何が欲しいんだい?』
『ウィンザー&ニュートンのパーマネントローズとローシェンナ、それとこれを』
アキラから預かった受取票を渡した。
『あぁ。アキちゃんのあれね。
ちょっと待っててね』
老女は棚から包みと絵の具を取り出し、紙袋に入れてくれた。
僕が財布を取り出してお金を出すまでの間、老女はじっとこちらを見続けている。
『あの……なにか?』
思い切って訊ねると、老女はニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
『あんた。いい男だねぇ。
死んだ旦那に似た、いい目をしてるよ』
ひいばあちゃん位の年寄りとは思えない発言に、寒気が走った。