黄緑絵の具
芽吹きの予感
桑原屋に着く頃、僕の体力は限界に近かった。
息が上がったまま店に入ると、老女が出迎えてくれた。
『そろそろ来るだろうと思って待ってたよ』
そう言って、冷たいお茶を差し出してくれた。
やっぱりこの人は何か知っている。
僕は確信した。
『聞きたいことがあるんだろ?』
僕が落ち着いたのを確認して、老女が話を切り出してきた。
『おばあさんは――』
『おばあさんはやめとくれ。
私のことはスミレと呼んでいいからね』
こんなに歳が離れた人を名前で呼ぶのは抵抗がある。
けれど、仕方がない。
『スミレさんは、悪魔とか使い魔とか、信じますか?』
スミレさんはふふっと笑った。
『あんた、呼び出したんだろ?
私の旦那は同じものを呼び出していたんだから』
『旦那さんって桑原志乃さんですよね?』
スミレさんはお茶を一口飲むとため息をついた。
『その通り。
うちの旦那はアレを神だと信じてたよ。
死ぬまでね』