黄緑絵の具


『い、いい男だなんて、初めて言われました』

きっと今の僕は苦笑いをしているだろう。
そう思っていても頑張って笑顔を作った。

『記念にこれをあげようかね。
うちの旦那が愛用してたんだ。あんたも美大生なんだろ。
きっと役に立つよ』


もうひとつ紙袋を渡された。

よくわからないまま老女に礼を言い、店を出た。





帰宅するとケータイに新着メールが一件。

アキラからのメールだった。

“夜、家に取りに行くから”


この調子だとデートは上手くいってるのかな。

恋愛に疎い僕でも、いつかするであろうデートを想像してみた。


オシャレなカフェで待ち合わせて、お茶して。
美術館やドライブもいいし、遊園地もいいなぁ。



『おい、周平!
なにニヤニヤしてんだよ』

『うわぁ!』

いきなりアキラに呼ばれて心臓が止まるかと思った。

『びっくりしたー。
あれ? デートは?』

アキラは不機嫌な顔で僕の前に座った。

『もうやめた。一緒に居るのに、ずっとケータイいじりっぱなしなんだぜ。あの女』


あれだけ熱心に口説いていたのに、たった一回のデートで幻滅してしまうなんて。

恋愛って難しいんだな。

『はい、これ。頼まれてた画材』


包みを渡し、アキラに店の老女とのことを話した。



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