ネクロフィリア【加筆執筆中】
「…そうかも。そうだね…。
……ねえ」

「何?」


藤井さんは俺の腕を取ると、もう、跡形もなくなってしまった傷があった場所を見る。


その部分を一度、そっと撫でた。



「…もう切ってないんだ」

「ああ、うん。夏は目立つし」


そう言ったけど、本心は彼女でなくてはダメだと思ったからだ。
自分の傷では、一切興奮しないのだから。

さっきも言った様に、俺は死にたいわけじゃない。
それにマゾでもない。


「…もしさ」



彼女は意を決したように俺を見ると、


「私が死ぬって言ったら…最期は側にいてくれる?」


そうやってはっきりと言った。


「……………」



すぐに言葉が出なかった。


だって、それはあまりにも甘美な媚薬に思えて。
俺がその答えまで誘導したものではあったけど。

引きこもってから欲しくて、ずっとずっと焦がれていたものだから。


俺が黙ったのを、拒否と受け取ったのか、藤井さんは地面に視線を落として言った。

「…ご、ごめん。いきなり。迷惑だよね」


俯く藤井さんの肩に手を置く。
それから俺は彼女の瞳を真っ直ぐ見つめた。
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