儚き願い
気が付くと僕はさっきの場所に立ち尽くしていた。
何が起こったのかは、分からなかった。
「ふん、つまらんな。どうした?立ったままで夢でも見ていたのか?」
朱雀は僕に言った。
そう言った朱雀さんの瞳には…
その瞳には…もう…
人間としても
獣としても
光が宿っていなかった。
そう。
いまの朱雀さんの存在は、どちらにしても“ただいるだけ”の存在となっていた。
「僕はあなたになんて負けません!」
僕は言った。
「何を言う?これから死んでゆく分際で!」
僕の言葉に朱雀さんは言い返す。
そこにはもう、あの優しい言葉を沢山持っていて、何かと僕を慰めてくれていた、朱雀さんは存在していなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・です。」
僕は小さくつぶやいた。
「何?」
聞き取れなかった朱雀さんは僕に向かって聞き返す。
けど僕は、もう一度言うことはなかった。
誰の目にも映らない程のスピードで、朱雀さんの懐に飛び込んだ、勢い良く刺さった僕の爪は、朱雀さんの心臓を貫いていた。
「は、早い!!」
守楠は驚いた様に言って、その場に座り込んでしまった。
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