時の中で






『…もしもし?』

「─おぅ、俺、分かる?」




君は名前も言わなかったね
初めてちゃんと会話するから
あたしが分かるわけないのに


『え、ごめん、分かんない』


「─蓮紅だけど」と
少し控えめな言葉が聞こえた


『蓮紅?あぁ、昨日の』

「─そう、これ俺の携番ね」


「登録しとけよ?」そう言い
君は一方的に電話を切った
───通話時間 32秒

窓の外で吹き荒れている
あっという間に通り過ぎる風のように
ほんの一瞬の出来事のように感じた



君はこの時どんな気持ちで
どんなことを考え
あたしの携帯を鳴らしましたか?
ほんの少しの出来心でしたか?
それとも何も考えていませんでしたか?


少なくともあたしの運命は
この瞬間から少しずつ
少しずつだけど確実に変わっていきました





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