ある冬の日に。[冬]
日付の変わる五分前。

「わたし、そろそろ行かなきゃ。」

彼女はそう言った。

彼女がたまに見せる困ったような微笑み。

それすらも彼女は美しくて、でも、見たくなくて…。

彼女の言葉はもうここにはいられないんだ、と時の終わりを告げていた。


もう僅かしか降らなくなった雪たちが別れを惜しむかのようにゆっくり、ゆっくりと降り来る。


「それじゃあね。」

彼女は俺に背中を向けた。

僕は、その背中に掛ける言葉がわからなくて、ただ寂しくて、何も言えない変わりに

彼女を抱き止めた。

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