ある冬の日に。[冬]
「私は雪の匂いが好き。

冬は嫌い、寒いから。

でも、雪の匂いは好き。

満月の夜、晴れた空からチラチラと降る雪の匂いが一番好き。

冷たい空気が静かに肺に進んでいって、全身を駆け巡る。

あの何とも言えない匂いが好き。

どんな匂いかなんては言えない。

だって雪の匂いは雪の匂いだから。」

そう言って彼女は空を見上げた。天から降りてくる雪の一つ一つを愛しむように…。




幾日か日が過ぎた。

彼女は毎晩、同じ場所に立っていた。

変わらない姿で…。

何をするわけでもなく、ただ、立っていた。

横に立つ俺に何か話しかけるわけでもなく、微笑みながら雪を見つめている。

そのたび俺は思う。

雪が、美しい雪の結晶が人の姿を持ったとしたら、その姿は彼女だろうと…。

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