ある冬の日に。[冬]
「彼氏とかいるの?」

何の脈絡もない質問。

その質問は不意に口から滑りだして、彼女へと届けられる。

それに彼女は少し困った様な笑顔で答える。

俺の下心が見えてしまったかのように少し困った顔で。

「私が愛せるのは雪だけ…。

他のものはずっと一緒にいられないから。」

一瞬、謎解き説きでも出されたのかとも思った。

でも、彼女の顔はまだ少し困った様にしていて。

それがさっきの言葉がただの事実だと教えてくれた。

結局、彼女の言葉を、彼氏はいないけどつくれない、と理解することにした。

それが意味するのは望みが消えたという事実だけ。

「けど…。」

彼女は呟いた。

顔は夜空に、いや夜空から舞い降りる雪たちに向けて、両手で作った掌のお椀で雪たちを受け止めながら。

「まだ、ここにいるから。まだ、しばらくはここにいられるから…。」

< 7 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop