スノードロップ
十階建ての塔に連れてこられ、最上階の個室で過ごし始めてから一年の月日が流れた。必要最低限の調度品と、日除けのカーテンすらない簡素な室内である。煉瓦造りの塔には、びっしりと蔦が巻きつき、スノウの置かれた部屋の窓からも、いくつかの蔦や葉がむき出しに顔をのぞかせていた。
一日のうち、数回のお手洗いと、決められた時間のお風呂。当番の男に連れられて出ていく部屋の外が唯一の「外出」だ。
「……また手をつけていないのか。いくら不死身の身体だとしても、少しは口にしないと倒れるぞ」
相変わらず男の存在そのものを見ようとしないスノウに、重い息を吐いて部屋を退出する。
部屋の扉が閉じる音がして、ようやくスノウが振り返ると、一瞬だけ男と目が合った。慌てて視線をそらし、脳裏に入り込んできた男の姿を追い出そうと窓の外を見た。
よく晴れた昼である。
閉じられた扉からは風の音ひとつ聞こえない。十階ともなると、小鳥が窓の縁に訪れることもほとんどない。晴れた日は、一日の流れがとても遅い。雨の日ならば、窓にたたきつける雨粒を見つめ、強くなったり弱くなったりする雨音を聞いているだけでも、とても心が安らぐ。囚人のような生活を強いられる前は、あんなにも晴れた日を楽しみにしていたというのに。日差しの中で泳ぐように舞う蝶を眺めるのも、兄と共に丘の上まで駆けていくのも、綺麗に洗濯したシーツに顔をうずめたときに香るお日様の匂いも、大好きだった。