スノードロップ
振り仰いだ先にいたあの男は、今まで見たこともないような焦燥を目に浮かばせていた。それとも、スノウが見ようとしなかっただけで、この男はいつも悲しそうな目をしていたのだろうか。
「命を絶つことだけは許さない。駄目だ」
「……なぜ? ならばわたしを兄のもとへ返して!」
スノウの唇が震えて、声がかすれた。目じりにたくさんの涙が浮かぶ。
「それもできない……。私の顔を見るのが嫌だというのなら、もう二度とここには姿を現さないと約束する。――だから生きてくれ」
男が頭を下げた瞬間、スノウはわめくように泣きだした。声がかれてしまうのではないかと思われるほど強く、激しく。男は一瞬ためらい、そして静かにスノウの体を抱きしめた。男の指がスノウの体に触れた瞬間、泣き声がやみ、呼吸が止まったかのように硬直した。だが、突き放すことも、蹴り上げることもなく、再び泣き出した。静かに、声も出さず肩だけを震わせていた。
男はスノウの耳元で「すまない」と小さな声でつぶやくと、抱きしめていた力をいっそう強くした。