スノードロップ
それから一日に一度だけ、スノウは塔の外に出ることを許された。
再び晴れた日を楽しみにできるようになるとは思ってもいなかった。
塔は高台の上に建てられているらしく、外に出ると遠くの景色が一望できる。塔の周りは山々に囲まれ、町も村もない。人の生活が全く感じられない景観である。ぼんやりと時間を忘れたいときにはいいが、ときおり思い出して寂しくなる。自分は本当に孤独なのだと思い知らされる。
草地の上にぺたりと座り込み、いつものように流れる雲を眺めていた。
ふと、塔の周りに花が咲いていることに気づいたスノウは、立ち上がり歩み寄る。白い花。まだスノウが兄と暮らしていたとき、修道院に植えられていた花と同じだ。寒い冬、降った雪を、天使さまが励ましのためにお花に変えてくれたのよ、と優しく語りかけてくれたのを思い出す。
スノウは胸の中に浮かんでは沈む思いを自覚していた。
あの男の腕の強さ。
兄の目の前で凌辱しておきながら、甘い言葉をかけるあの男。その後スノウに触れたのは、あの日たった一度きり。乱暴に扱われたことがまるで夢だとでも言うように、あの男はスノウに優しかった。
スノウは白い花を摘み取ると、監視の男にそっと渡した。あの男にこの花を渡して欲しい、と。