どうして好きなんだろう

その日は結局閉店の21時までお客さんは途切れなくて、思っていた通りの「好きなの借りてきなよ」って言う店長の有難いお言葉にも、なかなか意識を向けられなかった。

うん、でもやっぱり昨日から考えてたラブコメにしようっとDVDを手に取る。

今日みたいな嫌なことがあった日は特に、思いっきり笑って寝てしまいたい。



帰り支度をしながら、なんとなく気になる彼のことを店長に尋ねてみる。

「あれ?理央ちゃん、初めてじゃないでしょ?常連だよ、彼。」

同じく帰り支度をしながら店長。

うそだぁ~。あんな無愛想な人1回見たら忘れないでしょ。

天井を仰ぎ見ながら記憶をさかのぼらせるけれど…わかんない。

「ははっ。彼、背が高いからな。理央ちゃん、サンバイザーで見えなかったんじゃない?」

そう言われて、今までの接客を思い出す。

うちの店、決まった制服はない代わりに、店名のロゴが入ったサンバイザーを着用することになっている。

真夏で、屋外でもないのに。

着けることにまあ、抵抗はないけれど、確かに背の高いお客さんだとわざわざ顔を見ようとすると必要以上に見上げなくちゃならないから、口元くらいまでしか見てなかったかな…。
< 31 / 215 >

この作品をシェア

pagetop