春よ、来い
 彼女は少し驚いたように僕を見つめた。そしてまたいつもの表情に戻った。

「…あ。おはようございます。…いつもより電車遅かったんですね。」

「ええ。乗り遅れたんです。」

僕は答えてから、次の質問を発することをためらった。

もしただ何かの都合で会社を休んでいるだけならこれほど間抜けなことはない。

でも。

彼女に何かが起きているという確信もあった。

僕はちょっと間をおいてからたずねた。

「…今日は会社はお休みですか?」

彼女は少しだけびっくりしたようだった。
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