春よ、来い
「毎朝会釈してくれてどうも有り難うございました。今日あなたに会釈せずに行くのいやだったんですけど、これでもう思い残すことないです。」

上り電車がやってきた。

それを見ると彼女はカバンを持つと僕に、いつものように会釈して背を向けた。

僕は思った。


いやだ。

もっと彼女と話したい。

これからもずっと彼女と朝、あの一瞬を共有したい。

これでお別れだなんてあまりにも寂しいじゃないか。


僕は思わず彼女の腕を掴んだ。
< 14 / 20 >

この作品をシェア

pagetop