春よ、来い
 彼女は自分に言い聞かせるような口調でそう言った。

やはり彼女なりに考えた結論だったのだから、今更自分の願いなどでどうなるものではなかったのだ。

「じゃあ、やっぱりこれでお別れですか…。」

「いえ…そうじゃなくて。」

 彼女は少し苦笑いしながら言った。

「帰るのをやめるんです。」

「本当…に?」

「実は誰かにそう言って欲しかったんです。さっきのあなたの言葉ほど格好よくじゃない
けど、誰かに『行くなよ』って…」

「よかったあ。じゃあ僕が言わなければ…。」

「帰ってたか…誰かが言ってくれるのを待ってたかもしれません。」

そう言って彼女はいつもの朝のように微笑んだ。

僕もベンチに座って彼女としばらく一緒に笑っていた。
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