春よ、来い
「もう、朝食はとられたんですか?」

 彼女が聞いてきた。

「いえ、まだですけど。」

「じゃあ…一緒に食べませんか?」

「いいですけど。でも僕にとっての朝食というのは、いわゆる夕食ですから、たくさん食べますよ。」

「いいですよ。私もおなかいっぱい食べたい気分です。」

 駅から出ると、そこはいつもの街が朝の陽射しを浴びて、いつもの人たちがそれぞれの仕事場へ向かい始めていた。

今日、僕はその人波に逆らいもせず、流されもせず、だけど一人ではなく、少しの間彼女と一緒に朝の街をただ眺めた。

それからゆっくりと彼女と朝食をとるために、店を探しながら商店街を歩き始めた。

「亜紀です。私、長谷部亜紀です。」

「あ、僕は橋本伸次です。」

 彼女の名前がようやくわかったそのとき、僕はなんとなく陽射しがとても暖かく感じられた。


そうだ、もう春だったんだ。

僕と彼女は少し暖かくなった朝の光を受けて、食べ慣れたマックに、いつもとは違う優しい気持ちで入ることにした。

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