春よ、来い
頬の擦り傷は本当にかすり傷だったらしく、あっと言う間に良くなった。4、5日してばんそうこうがとれた。

とれた日に彼女はすれ違いざま、微笑みながらまるでヤクザの傷跡のように自分の怪我した頬を指でスッと撫でた。

僕は少し困った顔をした。けれど彼女の眼は、ジョークよと言っているようなとてもやさしい眼をしていた。

彼女との一瞬のすれ違いは僕にとって本当に元気づけられる時間だった。

その一瞬を想うだけで1日の疲れが吹き飛んだ。

彼女はどんな格好だろうかとか、髪型が昨日変わったなあとか。



けれども僕は彼女と話をする機会を得ようとは思わなかった。
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