春よ、来い
ボクの気持ち
 ひょっとしたら、本当にひょっとしたらまだホームで待っててくれないかなというささやかな期待も持っていたが、下りホームに彼女の姿はなかった。

ところが彼女は意外なところにいた。

反対の上りホームのベンチで彼女は大きなカバンを抱えて座っていたのだ。

やがて彼女は顔を上げて、そしてこっちのホームにいる僕に気づいて、いつものように微笑んで僕に軽く会釈をした。

僕もいつものように会釈をした。

そして彼女はまた視線を落とした。僕はいつもの儀式が終わったことで、再び階段を降りて改札を通り、いつものように帰ることにした。


でも何かが釈然としなかった。

あの微笑みは何か違わないか。

あれはいつもの、2人で朝また会ったね、という微笑みではない。

僕の『あの一瞬』への想いが彼女の変化がただならぬことを教えていた。
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