太陽には届かない
今日の出社時間は8時45分。

毎度ながらギリギリだ。

陽菜は典型的な低血圧で、朝にはめっぽう弱い。

月曜の朝は比較的早く出勤するが、それ以外は大体この時間だ。

あと5分…あと1分…とズルズル寝ているうちに、遅刻寸前の時間になってしまう。

フロアに入ると、一歩前を、ヨレヨレの吉田が歩いている。

『お・は・よ!』

一目で2日酔いだと分かり、わざと耳もとで大きな声を出す。

すると吉田は、うるさそうに耳を塞いで振り向いた。


『んだよ、陽菜かよ~!勘弁してくれよ、俺今日ヤバいんだよ。』


陽菜は笑って反論した。


『私の言うこと聞かないからでしょ?!明日の仕事に響くよって忠告したのに。』


『マジ?そいやお前、いつ帰ったの?てか、オレ、どうやって帰った?』


『やっぱり?絶対記憶ないと思った!帰ったのは、10時過ぎかなぁ?アンタの事は、有田
くんが面倒見てくれたんだと思うよ。』


『何お前?!オレの事置いて帰ったの?!』


吉田があまりに真剣に抗議するので、陽菜はつい、声を出して笑った。


『だぁーって、有田くんいたしさぁ、何だか泰之にも電話したかったし。』


『お熱いことで。』


吉田はまるで、オヤジみたいな言い方をする。


『ま、本当はあそこまで酔っぱらったアンタを連れて帰るのがメンドクサかっただけなん
だけど。』


半分本音だった。

普段、あまり飲みに行くわけではないけれど、酔いつぶれた吉田は、タチが悪い。


『ひでぇなー』


吉田は苦笑いで陽菜の頭をこずくと、「じゃあな」と言って、オフィスへと入って行っ
た。

陽菜のオフィスは、そこから50メートルほど離れた所にある。

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