太陽には届かない
『おはようございます』


『あ、おはようございまーす!』


あいさつをしながら、後輩の笠井由梨が近づいてきた。


『陽菜さん、昨日飲みに行ったでしょ?』

ニヤニヤと意味ありげな顔をしている。


『えっ?』


陽菜は反射的に聞き返す。

由梨は年が近いせいもあり、“先輩と後輩”と言うよりは、友達同士のような関係だった。


『今日、化粧ノリが悪いから』


由梨は、一瞬ポカンとした陽菜に向かって、いたずらっぽく笑うと、


『ウソ。昨日吉田さん達と飲みに行ったでしょ?偶然見ちゃった。』


ああ…そう言うことか。

陽菜はどうでもいいじゃない、と思いながらも、お愛想で返す。


『吉田に誘われたの。アイツ、人の話も聞かないで強引だからさ。』


言いながらデスクに腰掛ける。


『吉田さんともう一人、イケメンいたじゃない?あの人は?』


ああ…そっちか。


『有田くん?吉田の後輩で、今回の会計ソフト作成プロジェクトの見習いらしいよ。』


由梨はがっかりしたような顔をする。


『何だー、私、てっきり陽菜さんの彼氏が上京してきたのかと思ったー。』


ちぇっ…と舌打ちをすると、自分の席に戻る。

由梨は可愛いが、噂好きなのがたまにキズだ。

人の彼氏に、異常に興味を示す。

会ってみたいと言われれば言われる程、会わせる気が失せてしまう。


今日は月末だから、きっと忙しいだろう。

由梨の噂話につき合っている暇はない。

それにしても…
金曜日、泰之との食事を家にしてよかった…


そう思いながら、陽菜は伝票の整理に取りかかった。
< 17 / 94 >

この作品をシェア

pagetop