太陽には届かない
『あれ?今日はビーフシチューなの?』

泰之が嬉しそうに台所に来る。

ビーフシチューは彼の大好物なのだ。


『うん、昨日から煮込んでおいたから、おいしいはずだよ。』


泰之は台所に立つ陽菜を後ろから抱きしめると、キスをしてからテーブルについた。


『いただきます!』


泰之は、本当に美味しそうに料理を口にする。

平らげるまで、さほど時間はかからなさそうだ。

ひとしきり食べると、泰之は真剣な顔で陽菜を見た。


???


陽菜が不思議そうな顔をすると、泰之は決心したように口を開く。


『陽菜さぁ…』

『うん?』

『こっちに来て、一緒に暮らさない?』


思わぬ言葉に陽菜の手が止まる。


『一緒に…?』

『そう。結婚とか、そういう難しいことじゃなくて…』


言葉を濁しながらも、決して目は逸らさない。

陽菜は黙り込んでしまった。

嬉しい。すごく嬉しい。

だけど…


『仕事の事もあるだろうし…引越さなアカンから、答えはそんなに急がなくてもいいんだけど。考えておいて?』


陽菜はその言葉に呆然と頷く。

そして二人は黙々とビーフシチューを口に運んだ。
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