太陽には届かない
陽菜はふと足を止める。

タバコをふかし、談笑するその人に、陽菜は見覚えがあった。


『有田…くん?』


思わず名前を口にする。

そして、その話相手は…


『林さん?!』


何とそれは、上司であり、今回のトラブルの元凶である、林カオリだった。


一瞬にして頭に血がのぼる。

それは、怒りでもあり、焦りでもあり、理解に苦しむ感情のようでもあった。


『何で…』


陽菜は、喉の奥から絞り出すような声を出す。


その声が聞こえるはずはないのだが、林カオリはふとこちらに気が付き、陽菜に手を振った。


陽菜は、お愛想笑顔で会釈をすると、その場を不愉快な気分で立ち去った。


−信じられない!!


陽菜の心中は穏やかではかった。


陽菜が今ここに呼び出される羽目になった張本人が、喫煙室でタバコをふかし、良平と談笑している…。


その一つ一つの事実が、陽菜の怒りを、感情の奥深くから、ざらついた不快感を伴って沸き上がらせた。
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