太陽には届かない
議事録と、自らがメモしたノートを持つと、陽菜は再び吉田の元に戻る。
途中、良平とカオリのいる喫煙室の前を再び通ったが、わき目もふらずに通り過ぎた。
陽菜は吉田の顔を見るなり、不快感をあらわにする。
『ねぇ、吉田!カオリさん、有田くんとタバコ吸ってたけど?』
吉田は、陽菜の顔を不思議そうに見ると、
『オマエ、何動揺してんだよ。』
と言った。
陽菜は‘動揺’と言う言葉に反発するように
『そうじゃなくて!カオリさんがブレーカー落としたんでしょ?なのに何で吉田だけが仕事してて、カオリさんはタバコ吸ってんのかってこと。』
と返した。
吉田はさらりと、
『あの人いても、役に立たねぇし、いたらいたで腹立つし、目障りだからさ。』
と、再びパソコンに向かい始めた。
陽菜は、吉田が本当は心底怒っている事を察知し黙り込んだ。
そして、不機嫌になる事も、陽菜に愚痴る事もなく、黙々と仕事をする様子を男らしいと思い、同時に、泰之もこんな風に仕事をしているのだろうかと、さっき別れたばかりの泰之に会いたくなった。
陽菜は仕方なく、抱えたノートを開くと、吉田の側に立ち、画面を見ながらチェックを始める。
それでも陽菜の心中にある、ざらついた感覚は、いつまでも後味悪く残った。