太陽には届かない
しばらくすると、良平はラフなスーツ姿で現れた。


『あれ?林さんは?』


きょろきょろと辺りを見回す。

陽菜はノビをすると、


『急用みたい。さっき先に帰っちゃった。』


と言い、


『二人じゃね…また今度行こうっか。』


と付け足した。

陽菜は帰るつもりで席を立つ。


『いいじゃないですか、二人でも。行きましょうよ。』


横からそんな良平の声がした。

内心驚きながらも、陽菜は平常心を保っていますとでも言うように、ゆっくりと頷き、良平の後に付いてゆく。側に立つと、身長差は20センチくらいあるだろうか。良平が大きく見えた。

まつげは長く、二重の目がくっきりしていて、肌もキレイだった。ほんの少し、目の下にクマができている。

エレベーターが開く。

乗ると、良平は地下のボタンを押した。


『へっ?地下だよ?』


陽菜が怪訝な顔をすると、良平はこともなげに、


『オレ、車通勤なんすよ』


と言った。

地下の駐車場に車を止めてあるらしい。

良平の後についてゆくと、黒のアルファードの前で止まる。

keyを取り出し、ボタンを押すと、ピピッと音がしてハザードが一回点滅した。


『どうぞ。』


良平が運転席のドアを開けながら、陽菜を促した。
< 30 / 94 >

この作品をシェア

pagetop