太陽には届かない
『ありがとう。』


陽菜は助手席に乗り込むと、周りを見回した。

特に飾りものもなく、シンプルな車内。真ん中のドリンクホルダーには、灰皿がセットしてある。車内の香りが良平のつけている香水に似ていた。


『相沢さん、何食べたいですか?』


リクエストを聞く良平に陽菜は


『有田くんは?』


と逆に聞き返した。


『オレ、エビチリ好きなんすよ。中華でいいですか?』


良平が答えると、陽菜は大きく頷いた。

ギアを入れて、車が発進する。地下駐車場を出ると、ネオンが広がる。

陽菜は緊張していた。緊張のあまり、口数が少なくなってしまう。


−自分らしくないな…


そう思った。

15分程走ると、‘Chinese restaurant’と看板のある駐車場に止まる。

陽菜はそそくさと車を降りると、良平の後について、店内へと進んだ。


『いらっしゃいませ。』

禁煙か喫煙かと訊く店員に、良平が‘喫煙で’と答えると、店員が先だって歩き始める。

窓際の喫煙席に通されるが、タバコを吸わない陽菜には少しけむたい。

これが泰之だったら間違いなく、禁煙席を頼んだだろうなと思う。


『相沢さん、お酒飲めます?』


良平の問いかけに、フッと引き戻されると、陽菜は首を横に振った。


『私、お酒あんまり飲めないの。有田くんは?』


『オレはビールが好きっすね。でも今日は車ですから我慢します。』


と微笑んだ。


『いいよ、飲んでも。私運転できるから、有田くんの車運転して送ってあげる。』


陽菜が冗談のつもりでそう笑い返すと、良平は


『マジっすか?じゃあ飲もうかな。』


と、まじめな顔で言い出した。
< 31 / 94 >

この作品をシェア

pagetop