太陽には届かない
お互いシートを倒した状態で、見つめあい、笑いあう。
陽菜の心臓は、それまでに無いほど高く・深く・大きく波打ち、その音は耳元で大きくこだまする。
-それは一瞬の出来事だった。
陽菜は良平との間にある、空気が一瞬変わった事を察知していた。
良平の手が陽菜の顔に伸び、その唇が陽菜の唇に重なる。
-…キスした…?
陽菜がそれを理解するまで、ほんの数秒とかからなかった。
そして、陽菜はその手と唇を拒むことができなかった。
長いキスを交わした後、陽菜はうつむき、良平の胸に顔をうずめた。
何も考えられなかった。
ただ、恥ずかしかった。
『相沢さん…こっち来て。』
良平の甘えるような声に反応し、陽菜は何かに操られたように、良平の座るシートへ移動する。
何度も、何度もキスを重ねる。
夜空に浮かぶ満月が見える。
陽が昇り始めるまで、良平とキスを交わし続ける。
本当に何も考えられない。
そして、そのキスは、夜明けまで続いた。
『そろそろ帰らなくちゃ…。』
陽菜のその言葉に、良平は頷くと、
『また明日…』
と照れくさそうに告げ、陽菜の手を離した。
陽菜は良平の車を降りると、何事も無かったかのように、近くで休憩していたタクシー運転手に声をかけると、その車に乗り込み、帰宅した。