太陽には届かない
帰宅後、部屋のベッドに寝転がりながら、あれこれと考え、悶々としていた陽菜の脇で、携帯電話が鳴る。
時刻は午後7時。
画面には、泰之の名前が表示されていた。
『もしもし?陽菜?』
こんな風に、少し早口の時は、まだ仕事の最中だったりする事が多い。
『泰之…久しぶり。』
陽菜は後ろめたい気持ちでいっぱいになる。でも罪悪感とは違う。
泰之はあの夜の、陽菜と良平のキスを知るはずもなく、陽菜の裏切りに気づく術も持ち合わせていない。
『久しぶり…、あのさ、イキナリ本題で悪いんだけど、今からコッチ来られない?』
突然の要請に、陽菜は言葉を詰まらせる。
『っ…。えっ?今から?』
『そう、今から!見せたいモノがあるんよ。陽菜に見せたい。』
泰之と‘必ずそっちに行くから’という約束を果たせていない陽菜は、後ろめたさが逆に背を押し、泰之の元へ行く事を即座に決めた。
『分かった、これから支度して行くから。新幹線が駅に着いたら、一回電話するね。』
『わかった、オレもまだ仕事終わらんから…、なるべく早く切り上げておくわ。』
『ん…、じゃあ後で。』
電話を切ると、陽菜は、小さなボストンに洋服とメイク道具だけを詰めて家を後にした。