太陽には届かない

再生

−午後8時。

陽菜は新幹線の切符を手に、駅のホームに立っていた。

ここから1時間ちょっとで、泰之の住む街へゆける。それなのに今までどうして3ヶ月以上も行かなかったのだろう。

良平の存在が、泰之の存在を打ち消していたからに違いないのに、陽菜は一瞬、‘お金ないしなぁ…’と自分自身に言い訳をした。

電車がホームに入ってくる。陽菜は禁煙車両を選んで乗り込んだ。

ホームを離れて間もなく、小雨がパラパラと降り始め、暗闇に染まった窓ガラスに、斜線の跡を刻む。


−あっちは雨かな…?


陽菜は窓枠に肘をかけながら、外をみやり、漠然と再会の様子を思い描く。

改札の外で待つ泰之。

駆け寄る自分。

いつものように、手も繋がず、キスを交わす事もなく、陽菜は泰之の運転する車に乗り込む。

ホテルに着いて初めて、抱き合ってキスをする。

それから、買い込んできたお酒やつまみを飲み食いして、映画チャンネルを見て和む。

遠距離という事さえ除けば、何ひとつ不満のない、幸せな環境にいたはずだった。

それなのに、良平に心揺れ、あろうことかキスまで交わしてしまった。

陽菜には自分が分からなかった。


結局、何をしていても、何を考えていても、その先にあるのは良平の存在だった。

泰之の事を愛しているし、結婚してもいいと思っていた。

今でも、愛している。

だけど、もう、結婚は考えられない。

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