太陽には届かない
-午後10時。
新幹線が駅に滑り込み、陽菜は泰之の住む街に到着した。
窓の外に、ツインタワーになったホテルが見える。
陽菜と泰之は、いつもこのホテルに泊まっていた。
泰之の勤めている会社が株主だそうで、高級なホテルではあるが、幾分安くなる。それに、ビジネスホテルと違い、出入りも比較的自由だ。
陽菜は携帯電話を取り出し、着信履歴から泰之に電話をかけた。
メロディーコールにしてあるので、泰之の携帯に電話をかけると、必ず『LOST MAN』という曲が流れてくる。
サビに入る前に、泰之が電話に出た。
陽菜はいつもの待ち合わせ場所にいると告げると、“もう着いてるよ”という返事が返ってきた。
よく見ると、5メートルほど離れた場所に、白い車が止まっている。
泰之の車だ。
泰之は車が大好きで、この車も中古品ではあったが自分で購入し、ずいぶんといじってあるそうだ。
シートはレカロという、車好きがよく好んで使うものらしい。
警察に捕まると困るので、ネズミ捕り探知機(スピードなんとかと言うらしいが、陽菜は未だにそう呼んでいる。)を設置しているそうだ。
今時めずらしいマニュアル車なので、もちろんギアもあるし、クラッチもある。
陽菜は、泰之の車のエンジン音が好きだった。なんだか心地いい。
『久しぶり。』
そう言いながら助手席に乗り込む。
泰之がこちらを見ているのが分かったが、陽菜はほんの少しだけ泰之に顔を向けただけで、まっすぐに見据える事が出来なかった。