太陽には届かない
『うそだぁ~!』


陽菜は笑ってかわす。

こんな花火大会顔負けの花火を、泰之一人の力で上げられる訳が無い。

冗談だと分かっていても、陽菜には嬉しかった。

照れくさそうに笑う陽菜の顔を見つめると、泰之は

『ホントだよ。だってこんなによく見えるのに、周りには誰もいないでしょう?駅にも浴衣の子、いなかったでしょ?今日は平日だし。』


と言った。

泰之があまりに真剣だったので、陽菜まで真剣な顔になる。


『えっ…?ホントに…?!本当に陽菜のためだけの花火?何で?何でこんなにすごい花火が出来るの?』


泰之を質問攻めにする。

泰之は陽菜の頭をそっとなでると、ゆっくりと話しを始めた。


『あのな、オレの友達にウェディングプランナーがいて、今度斬新な結婚式のプランを提案することになったの。で、結婚式を夜にして、花火をあげたらどうかって企画を立てたんだ。』


あとは分かるでしょ?とでも言うように、泰之はいたずらっ子のように笑った。


『じゃぁ、本当にこれ…陽菜のためなんだぁ…』


陽菜は嬉しくて涙が出そうなのを必死にこらえた。

普段、こんな気の利いたことをするタイプじゃないのに、こんなにロマンチックな演出をしてくれるなんて、夢にも思わなかった。


『どうしても、日にちの都合がつかなくて、急遽来てもらうことになっちゃったけど。』


泰之は突然の呼び出しを気にしていたようだった。

陽菜はブンブンと首を横に振ると、素直に


『嬉しい。』


と答えた。

泰之は優しい。陽菜を誰よりも愛してくれている。

崩れかけた泰之への愛情が、再生を始めているように思えた。

泰之を思う気持ちが、恋愛細胞を修復している…

陽菜はそう、実感していた。
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