太陽には届かない
少しの間をおいてから、陽菜は頷いた。


『じゃあ…!』


目を輝かせる泰之に、陽菜はうつむいて首を振った。


『泰之と結婚するって、まだ実感湧かないの。好きだし、愛してるし、愛されてるのも分かる。きっと陽菜は幸せになれると思う。でもね、まだ決心出来ない…。』



『好きな人が出来た?』



急な泰之の質問に、陽菜はビクッと反応した。



-良平の事??



一瞬、陽菜の頭の中に、良平とのキスシーンが浮かんだが、陽菜は即座に首を振った。


『そういうわけじゃない。でも…よく分からないの。一生一緒にいるんだろうなって思うんだけど、結婚ってなると話は別なの。』



陽菜は泰之に嘘をついている自分に気づいていた。

良平に心惹かれる自分。もしかしたら、良平が自分を好きになってくれるのではないか、良平と付き合うことになるのではないか。良平のトクベツになれるのではないか。

かと言って、泰之の優しさが捨てられない自分。良平に受け入れられなかった時、泰之にまで捨てられてしまったら、生きていけない。寂しすぎる。


-私はずるい。


陽菜には分かっていた。言い訳をしている自分の醜さや狡さを理解していた。

泰之は無言でタバコを吸っている。


『出よっか。』


そう言って、フロントに電話をかけると、陽菜の手を取って歩き出した。

部屋を出て、エレベーターの中でキスをする。


『オレは陽菜が好きだし、ずっと大事にするよ。』


そう言った瞬間、エレベーターのドアが開いた。

泰之が陽菜の手を離して先に歩く。

泰之は絶対人前では手を繋いだりしない。

陽菜には、何だかそれが少し寂しかった。

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