太陽には届かない
車を運転する泰之の横顔が、怒っている気がして、陽菜は黙っていた。


『今日は何だか静かだね。』


泰之は陽菜を見て気まずそうに笑った。


『そんな事ないよ、久しぶりだからちょっと緊張してるだけ。』


陽菜は窓を開けると、高速道路の向こうに広がる海を眺める。

太陽の光がキラキラと海に反射していた。


『陽菜、どこに行きたい?』


後方から泰之の声がして、陽菜は振り向く。


『えっ?』


陽菜はてっきり、いつものホテルを取りに行くのかと思っていたので、キョトンとする。


『前に約束したじゃん、どっか出かけようって。』


そう言えば、前回泰之が陽菜のアパートに来たときに、“どこかに行こう”と約束していた。


『ホテルは連絡してあるからさ、このまま出かけようよ。今日はコッチに泊まるでしょ?』


陽菜は泰之と出かけるのは本当に久しぶりだったので、嬉しさと戸惑いから、首をブンブン縦に振り、精一杯頷いた。

泰之はそんな陽菜の様子を見て、満足そうに頷き返す。


『で、どこに行きたい?』


再度聞き直す泰之に、陽菜は迷わず“水族館!”と答えた。

港にある水族館では、シャチとイルカのショーがあるらしい。

前から行きたいとは思っていたが、なかなか機会がなかったので、一回も行ったことがなかったのだ。

港なら、ここから近い。昨日花火を見たあの場所から、おそらく20分とかからないだろう。
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