太陽には届かない


『水族館て…陽菜は単純だなぁ。』


泰之はハンドルを切り、左折ラインへと進路を変える。


『だって、デートらしくない?水族館とか動物園て。しかも、港の水族館なんて、何かロマンがある感じするもん。』


陽菜は両腕を組み、うーんと伸びをする。

港が近いのだろう。窓から入ってくるほのかな潮風が気持ちよく、髪の毛がクシャクシャになっても気にならない。


『陽菜と最後に出かけたのって、いつだっけ?』


泰之は眉間にしわを寄せて考えている。


『京都かな。夏の京都。二人で葛饅頭食べたよねぇ…。』


陽菜が懐かしそうに言うと、泰之も


『あぁ…そうだ。もう2年以上前になるよなぁ…。すごい暑かった。』


『うん、すごい暑かった。』



泰之と出かけた夏の京都。

日差しが強く、気温も高い中で、大量の汗をかきながら二人で歩き回った。

それでも、泰之と一緒にいられるだけで、嬉しくて仕方が無かった。

清水寺で、恋愛成就の水を飲んで、二人でずっといようねと笑うと、泰之も照れくさそうに頷いていた。

泰之の事だけしか見えていなかった。


-でも今は…。


陽菜は狭間にいた。

良平と泰之の狭間ではなく、泰之との「結婚」と「別れ」の狭間で揺れていた。

水族館が目の前に見えてくる。

別れる事も、結婚する事も選べない…。

陽菜は窓を閉めると、シートに全体重をかけ、小さくため息をついた。
< 52 / 94 >

この作品をシェア

pagetop