太陽には届かない
『水族館て…陽菜は単純だなぁ。』
泰之はハンドルを切り、左折ラインへと進路を変える。
『だって、デートらしくない?水族館とか動物園て。しかも、港の水族館なんて、何かロマンがある感じするもん。』
陽菜は両腕を組み、うーんと伸びをする。
港が近いのだろう。窓から入ってくるほのかな潮風が気持ちよく、髪の毛がクシャクシャになっても気にならない。
『陽菜と最後に出かけたのって、いつだっけ?』
泰之は眉間にしわを寄せて考えている。
『京都かな。夏の京都。二人で葛饅頭食べたよねぇ…。』
陽菜が懐かしそうに言うと、泰之も
『あぁ…そうだ。もう2年以上前になるよなぁ…。すごい暑かった。』
『うん、すごい暑かった。』
泰之と出かけた夏の京都。
日差しが強く、気温も高い中で、大量の汗をかきながら二人で歩き回った。
それでも、泰之と一緒にいられるだけで、嬉しくて仕方が無かった。
清水寺で、恋愛成就の水を飲んで、二人でずっといようねと笑うと、泰之も照れくさそうに頷いていた。
泰之の事だけしか見えていなかった。
-でも今は…。
陽菜は狭間にいた。
良平と泰之の狭間ではなく、泰之との「結婚」と「別れ」の狭間で揺れていた。
水族館が目の前に見えてくる。
別れる事も、結婚する事も選べない…。
陽菜は窓を閉めると、シートに全体重をかけ、小さくため息をついた。