太陽には届かない
『ダメッ…』


陽菜は思わず叫ぶ。

陽菜の下で、泰之の動きが止まる。


『痛かった…?』


心配そうに見上げる泰之の声に、陽菜は我に返る。


何てことだろう…。


陽菜は満月を見たその瞬間、良平とのキスを思い出し、泰之を拒絶したのだった。


『ごめんね…ちょっと無理しすぎたみたい…。少しだけ痛かったけど、今はもう平気…。』


必死にごまかす。

陽菜はそのまま泰之の胸に倒れこむと、キスをした。


『ごめんね…。』

もう一度つぶやくように謝ると、泰之は陽菜を抱きしめ、


『大丈夫だよ…。』


とつぶやき返した。

泰之の胸の中で考える。どうして??今までこんな事はなかった。体が拒絶するなんて、ありえなかった。

何でもないとごまかしたけれど、きっと泰之は、陽菜の変化に気づいているだろう。

確信を持っていなくても、何かがおかしいと感づいているだろう。

陽菜は自分自身に呆然としながら、泰之の腕に包まれている。

泰之も何も言わず、陽菜をそっと抱きしめ、赤子をあやすように背中をポンポンとリズムよく叩いている。

しばらくすると、心地よいそのリズムに誘われるように、陽菜はそのまま眠ってしまった。


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