太陽には届かない
次に目覚めた時にはもう、隣にいたはずの泰之の姿は無かった。

時計を見ると、午前10時半。

レイトチェックを頼んであったので、12時までにチェックアウトすれば間に合う。

ベッドから降りて辺りを見回すと、部屋中そこかしこに、泰之がいた痕跡が残っている。

テーブルの上にタバコの吸殻が一本。きっと陽菜に気を使い、換気扇の下かベランダで吸ったのだろう。

洗面所には、一人分だけ使い終わった、アメニティの歯ブラシと髭剃り。バスタオルやフェイスタオルは、泰之の分だけが散乱していて、陽菜のものはきちんと揃えて置いてある。

ガウンはハンガーにかけてクローゼットの中にあった。

陽菜もシャワーを浴び、着替えて支度をすると、チェックアウトの準備をする。

これで新幹線に乗ればまた、泰之とはしばらく会えない。

陽菜はひとつため息をつくと、部屋のドアを開けた。

エレベーターに乗り、フロントに鍵を返却する。


『おはようございます、相沢様。お連れ様より、お預かりしているものがございますので、少々お待ち下さいませ。』


フロントの女性はそう言うと、ボックスの中から封筒を取り出し、陽菜に渡した。


『こちらでございます。朝、お出になる時に、相沢様にお渡しするようにとの事で、係の者が受け取っておりました。』


『すみません…ありがとうございました。』


陽菜は一言お礼を言うと、封筒を受け取り、ロビーのソファに腰掛けた。

陽菜は早速封筒を開け、テーブルの上でひっくり返す。

カラカラと音をさせて出てきた中身を見て、陽菜は目を疑った。

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