太陽には届かない
仮面
タクシーの運転手は5分と言ったが、地図の場所までは、15分ちょっとで到着した。
しかし、都市の中心地から車で15分しか離れていないのに、その事を窺わせない、閑静な場所だった。
平屋が何件か並び、その隙間にぽつんぽつんと2階建ての家が並ぶような…少し上の年代の人が見れば、昭和のにおいを感じると言いそうな。
庭を囲うように生い茂っている木々のせいでよく見えないが、どの家も庭が広いように思う。
陽菜はタクシーを降りると、再び地図を出し、今立っている位置を確かめる。
どうやら陽菜の目指す場所は、今ある目の前の家から3件隣らしい。
その方向へ向かって、ゆっくりと歩き出す。
アスファルトでかろうじて舗装してある道路は、所々に穴が開いていたり、ヒビが入ったりしている。だいぶ長いこと手入れをしていないのだろう。
ちょうど3件目で、垣根が途切れる。そこを右に曲がると、ちょっとした庭のようなスペースになっていた。
茶色の土と、中途半端に芽を出している芝の上には、泰之が来たのだろうか、車のタイヤ痕が何本かあり、特に表札も門もない玄関前のスペースは、駐車場にもなりそうだった。
泰之が手紙に書いたように、「築25年の平屋」という言葉がぴったりな、哀愁漂うその木造建築物は、庭の明るさと対照的に、雨戸が固く閉ざされ、閉鎖的な雰囲気をかもし出している。
陽菜は、未知なる我が家(?)への期待と不安から、少し小走りになって玄関に駆け寄る。
今時ガラガラと音を立てて開ける引き戸なんて、滅多にお目にかかれない。
陽菜は、取り出した鍵を、引き戸の真ん中にある鍵穴に差し込む。
2~3回クルクルと回すと、「カチリ」と音がして開いた。