太陽には届かない
木枠に曇りガラスという、昭和レトロな風情たっぷりの引き戸は、本当に「ガラガラ」という音を立てて開いていく。

途中、立て付けが悪いのか、何度か突っかかったが、まぁこれも愛嬌だろう。

玄関を開けると、目の前には木の廊下が広がる。

掃除はしてあるようだ。

靴を脱ぎ、部屋に上がると、薄暗い通路の右手前には和室、右奥は何と、フローリングの部屋になっているのが見渡せる。

廊下の左手には、やはり木枠に曇りガラスというレトロな引き戸があり、開けるとキッチンになっていた。

廊下の突き当たりは、どうやら風呂場らしい。洗濯機が見える。

探索をしながら陽菜は、部屋中の雨戸と窓を開け放つ。

隣の家との間には、やはり垣根があるので、視覚的なプライバシーは完全に守られている。

とはいえ、距離的にはそんなに離れていないので、窓を開けたまま話をすればきっと、会話の大半が筒抜けてしまうだろう。

網戸だけを閉めて振り返り、改めて周りを見回すと、驚いた事に、必要最低限の家具がすでに揃っていた。

テーブル、照明、布団、小さなラジカセ、小さいながらもテレビまで付いている。

テレビのスイッチを入れると、全国ネットのワイドショーが映し出される。

陽菜は胸からこみ上げてくる、ワクワク感(小さい頃、宝探しごっこで体験したような)を抑える事ができず、二組の布団の山に飛び込むと、意味もなく、バタバタと手足を動かし、それに疲れると今度は仰向けになって、天井を見上げたまま、ふふっと静かに笑った。

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