太陽には届かない
天井には、いくつものシミがある。

昔、祖母の家で見たものと同じようなシミを見ながら、この形は何に似ているかとか、人の顔の様だと怖がっていた事を思い出す。

陽菜は目をつぶり、ここでの生活を想像する。

金曜日の夜、仕事が終わると新幹線か夜行バスに乗り、はるばる泰之の街まで来る。

泰之は駅まで迎えに来ている。

陽菜がその車に乗り込むと、泰之は無言で走り出し、この部屋の前に車を止める。

二人はまるで、毎日ここで生活しているかのような時間を過ごす。

泰之とのそんな生活は、容易に想像できた。

そして目を開けた。携帯電話が鳴っている。

陽菜は、カバンの中を探ると、電話を開き、相手の名前を確認する。

タイミングが良すぎる…というより、悪すぎることに、画面に表示された名前は、

“有田良平”

だった。

陽菜はひとつ深呼吸をすると、通話ボタンを押す。


『もしもし?』


良平の声が聞こえる。少し電波が悪いせいか、雑音が入っている。


『有田くん?どうしたの?』


『いや…すみません、金曜日に何か話があったみたいなので…』


バツの悪そうな、歯切れの悪い口調で話す良平に、陽菜は少し苛立った。


『その事ならもういいのに。何もお休みに電話してもらうほどの事じゃないから。』


言ってから、少し冷たかったかなと、慌てて続ける。


『…もし、月曜日に空いてたら、会える?月曜日は有給休暇をもらうつもりだから、仕事が終わった頃に、この間のレストランで待ち合わせでいい?』


電話を通じて、良平の緊張が解けたのが分かる。


『わかりました。月曜日の午後6時にレストランで。』


『うん、それじゃあ。』


陽菜は電話を切ってからまた、布団に仰向けになって、目を閉じた。
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