太陽には届かない

沈没

『相沢さん！』

月曜の夜、約束の時間を10分ほど過ぎて、良平が現れた。

いつもの通り黒のアルファードに乗り、窓を開けて身を乗り出している。


『あぁ…有田くん、お疲れ様。』


陽菜は笑顔で良平を迎える。


『食事します？』


聞かれた陽菜は横に首を振り、“食べてきた”と言った。

今日は食事なんてしている場合じゃない。良平とキッチリ話合わなければ。


『今日は話がしたいから…ゆっくり出来るところがいいんだけど。』


良平は少し考えて、


『じゃあ、またあの駐車場でいいですか？』


と伺いを立てる。

話をするのに、何でよりによって駐車場…？

陽菜は一瞬、身構えたけれど、どこかの店に入ってお酒でも飲もうものなら元の木阿弥だな…と考え直し、助手席へと乗り込んだ。

相変わらず、良平の車の中は、香水とタバコの入り混じった匂いがする。

きっと、先週の金曜日には、林カオリもこの車に乗ったのだろうな…と、悟られない程度にチラチラと辺りを見回すが、特に変わった様子は無い。

そうこうしているうちに、駐車場に到着し、良平はエンジンを止める。


『エンジン止めたらちょっと暗いね。』


陽菜がそういうと、良平は再びエンジンをかけた。


『あ、ごめん、それが嫌だってわけじゃなくて。』


良平は少し笑って、無言でタバコを取り出し、火をつける。

少し開いた窓に向かって、ふぅーっとゆっくり吐いた白い煙が、外へ向かって一斉に排気されてゆく。

その沈黙に耐え切れなかったのか、良平が切り出した。
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