太陽には届かない
『オレ…彼女と別れたんすよ。…もう無理なんですよね…。』


何の前触れもなく発せられたその言葉に、面食らいながらも陽菜は平静を保つ。


-じゃあ…


陽菜は以前、良平と交わした言葉を思い出す。


-彼女と別れたら、私が付き合ってあげるから!


陽菜は一瞬期待をした。もしかしたら、良平は私と付き合うために彼女と別れたのではないか。


陽菜が黙っていると、良平はそのまま続ける。


『もう、誰とも付き合う気がないっていうか…。ダメなんですよ。』


その言葉ひとつで、陽菜は“もういい”と思った。

数秒前に頭の中に浮かんだ、独りよがりな期待を恥じ、まさに“穴があったら入りたい”状態だった。

でも、陽菜が聞きたかったのはそこなのだ。

一体あの日、良平がどんなつもりで陽菜にキスをしてきたのか、そして二人の関係は進展するのか、その可能性があるのか。

良平は陽菜が知りたかった全てを、その一言で答えたも同然だった。


『そう…。そっか。』


陽菜はそう言うのが精一杯で、後は言葉にならない。

つまり良平のあの日の行動は、単なる「気まぐれ」でしかなかったのだ。

二人は沈黙に身を沈める。きっと良平は良平なりに、傷ついているのだろう。

だけど、私だって傷ついている。

陽菜はシートにもたれかかり、車の天井を見つめながら、悟られないように深くため息をついた。
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