太陽には届かない
事が終わった後の陽菜は“朦朧”という言葉以上にぴったりな言葉がないくらい“朦朧と”していた。

陽菜の下で、少し息を切らす良平を見る。

良平も陽菜を見つめていた。

二人とも、はにかみながら笑い、そしてうつむく。

何て幸せな時間なんだろう。

こんな胸の締め付けられるようなせつなさを含む“幸せ”は久しぶりだった。

まるで10代の少女に戻ったような…。

陽菜は、数時間前の良平の“誰とも付き合う気がない”という発言をすっかり忘れ、恍惚としていた。

良平の体を手に入れたこと。一瞬でもその時間を独り占めできたこと。そして、こうして見つめ合っている時間。

なにも考えられなかった。

これから先のこと…関係を結んだ二人が同じ職場でどのように接すればいいのかも、林カオリとあの夜何があったのかも、泰之の事も、良平の言葉に含まれた矛盾も、真実も、その本心も。

何もかもがどうでもよかった。


『話し合ったのに…意味ないね…。』


良平は、はにかむ様に笑いながら言う。

陽菜は一瞬、良平の言わんとしている真意が分からずに戸惑ったが、とりあえず頷くと、“意味なかったね…”と苦笑いをした。

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