太陽には届かない
携帯電話を放り出し、ベッドから起き上がり、洗面所に行くまでに散らかった衣類を拾い集めて、洗濯機に放り込むとスイッチを押す。

1時間もあれば1回洗濯ができるから、1週間放りっぱなしの洗濯物は全て片付けられるだろう。

納戸から、掃除機を引っ張り出し、部屋の中のゴミをざっと吸い取るとすぐにしまう。

少し汗ばんだので、そのままシャワーを浴びて出てくると、ちょうど洗濯終了の合図が鳴った。

吉田の強引さにブツブツ言いながら、タンクトップに短パンといういでたちで、洗濯物を干す。

それにしても、今日の吉田は一段と強引だ。きっと何か、どうしても話したい事があるのだろう。

吉田も結構なゴシップ好きだ。ただ、彼の場合は滅多やたらに口にしたりしないだけで、そこが由梨とは違う。

由梨と吉田…意外に気が合いそうなのになぁ…

陽菜は向かいの庭を見ながら思った。

向かいの『向井さん』は最近、犬を飼い始めたらしい。向かいの向井さんなんて言うだけでも、ぞっとするのだが、事実なんだから仕方ない。

それも今時、外に犬小屋を置いて飼っている。

犬はペットじゃなくて家族!などと言っては、嫌がる犬に洋服を着せて歩くセレブ達が取りざたされている中、外飼いの犬なんて珍しいなと思うとつい、様子が気になって覗き見してしまう。犬の名前は知らないけれど。

犬はこちらを見ることなく、自分の尻尾の付け根を噛んでいる。一人遊びだろうか。それともかゆいのだろうか。
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